水虫薬の睡眠薬混入、116日間の業務停止命令
水虫などの皮膚病用の飲み薬に睡眠導入剤が混入した問題で、福井県は2月9日、製造した小林化工(同県あわら市)に116日間の業務停止命令を出した。少なくとも2005年以降、約7割の製品で法令違反が確認されたとし、小林広幸社長ら経営陣も違法性を把握していたとした。厚生労働省によれば、医薬品医療機器法違反として最長の業務停止処分となる。
県などによると、睡眠導入剤が混入した薬イトラコナゾール錠50「MEEK」の製造に関する法令違反としては、厚労省の承認外の手順による工程があったほか、新たに、立ち入り調査に備えて適切な工程を装った裏帳簿をつくったことや出荷前の品質検査で結果の捏造(ねつぞう)があったとした。
ほかの薬でも、同様に承認外の手順書や裏帳簿が存在し、検査記録の捏造があったと指摘。品質検査で不合格となっても原因究明をしないまま合格するまで検査を重ねた違反もあった。こうした違反を経営陣や現場責任者は把握しながら黙認し、改善を指示しなかったとした。
県は一連の法令違反を重くみて1月25日、今回の処分内容の方針を伝えたが、同社は弁明期限の8日に弁明しないと伝えた。
引用:https://www.asahi.com/articles/ASP2953QBP29PTIL00F.html
─ YODOQの見方───────────────────────────
数々の不正について小林化工の社長は記者会見で「現場は法令、ルールより効率を優先した。出荷に間に合わせるため場当たり的な対応が常態化していた。」と謝罪しました。小林化工はジェネリック医薬品と呼ばれる先発薬の特許が切れた後に販売される後発薬を製造することで、急速に業績を伸ばした企業です。
ジェネリック医薬品は先発薬と同一の有効成分を用いて作られているため、効き目は同等でありながら開発費を抑えられる分、価格は安価になるので、医療費を抑制したい国の後押しもあり普及してきました。
ジェネリック医薬品は先発薬の発売後、数年から十数年を経てから開発されるため、その間の製剤技術の進歩で苦味が減るように味を改良したり、小型化や溶けやすさなどに工夫を凝らすことも可能です。しかしながら、承認外の手順で作るなどのルール無視は、健康被害に直結する恐れがあるためやってはならないことです。そのルール無視を社長が黙認し隠ぺいしていたのが大きな問題です。このニュースを受けて、ジェネリック医薬品への信頼が揺らぐことも懸念されています。
東京電力も2002年に原発の自主点検記録を偽造する「トラブル隠し」が発覚し、信用が失墜し首脳陣が総退陣しました。この不正発覚後、原子電力部門に膨大な規定やマニュアル類を整備し、原発施設で起きた機器の故障やトラブルは全て報告することが義務付けられました。このことで、現場は報告のための書類作りに謀殺されていたそうです。
東電社員は
「細かい不具合をゼロにすることばかりに集中し、大きな視点で安全を考える余裕がなくなっていました。それで、津波という最も肝心なリスクに向き合えなかった。不具合を何件減らしたということの方が重要になっていた。」
と振り返っています。
その後も2007年に東京電力を含む電力各社で原発の検査データの改ざん等が発覚したり、同じ年の7月に発生した新潟県中越沖地震で被災した柏崎刈羽原発での対応も後手に回って批判されました。その後も抜本的で十分なリスク管理が行えておらず、東日本大震災での事故へと繋がっているとの見方もあります。また、2020年9月には東電社員が他人のIDカードで柏崎刈羽原発の中央制御室に入室するという不正もありました。
医薬品や原子力を扱う企業の不正は、人命や生活に直結するような重大な事故につながる可能性があります。
小林化工も関西電力も不正を見逃したために重大な事故を引き起こし、社会的にも大きな問題に発展しました。このように問題化した場合、一企業だけの問題では済まず、その企業が所属する業界全体にも影響を及ぼします。いくら規定やマニュアルが正しくても、それらを正しく運用できていなければ無意味です。そして、運用するのが人である以上、社員への教育だけでなく先ずは経営陣の不正に対する意識を向上する必要があると思います。
どのような企業や組織でも、これぐらいなら大丈夫と見過ごしてしまうようなトラブルや不正があるのではないでしょうか。それが、命にかかわるようなものでなくても、思わぬ事故に繋がることもありえます。今一度、自身の周りや意識を見なおしてみることとあわせ、第三者のチェックを受けられるような仕組み作りを検討してみてはいかがでしょうか。