「デジタル課税」導入、法人税を最低15%以上、G20で大筋合意

イタリアのベネチアで開かれていた主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は7月10日、2日間の協議を終えて閉幕した。多国籍企業の「課税逃れ」を防ぐ新たなルールについて、閣僚レベルで大筋合意した。10月に最終合意し、2023年の導入を目指す。
新ルールは、米IT大手などを想定した「デジタル課税」の導入と、世界共通で法人税の最低税率を15%以上にすることが柱だ。
現在の国際課税ルールでは、工場やオフィスといった拠点を持たない企業からは法人税を徴収できない。デジタル課税は、一定水準を超える売上高や利益がある企業に対し、拠点がない国でも課税できるようにする。広告や音楽配信といったデジタルサービスで巨額の利益を上げている米巨IT企業など、100社程度が対象になるとみられる。
法人税の最低税率の導入は、税率が低い国に子会社をつくって利益を移転させる行為に歯止めをかけるのが目的だ。子会社がある低税率国の税率が、世界共通の法人税率を下回る場合、その差額分について、親会社が本社を置く国に納める。

引用:読売新聞 2021/07/11

─ YODOQの見方───────────────────────────

●今回の合意についてのおさらいです。
・法人税の最低税率を「15%以上」とする。
法人税はどの国にとっても財源の柱となる税金ですが、企業の誘致や投資を集めるため、これまで国際的な引き下げ競争が繰り広げられてきました。例えば、オランダは外国から企業や投資を呼び込むため、2004年から2007年にかけて法人税を35%から25%まで段階的に引き下げ、これに対抗してイギリスは2008年から法人税を30%から19%まで段階的に引き下げました。GAFAも同じ目的のため、法人税が12.5%と低いアイルランドに名目上の拠点を置いています。
こうした税率の引き下げ競争は結果的に世界的な税収入の悪化につながり、巨大企業に富が集中するという格差につながります。これを是正するために各国の法人税の最低税率の統一が提唱されました。

・米IT大手などを想定した「デジタル課税」の導入
今までの国際ルールでは、工場やオフィスといった拠点のある国に納税すればよいということでした。つまり拠点を必要としないデジタル企業に有利に働いていたわけです。しかし今回の見直しで、一定水準を超える売上高や利益がその国で発生した場合、それに対して納税義務が発生するというように変更されます。
対象となる企業規模は年商200億ユーロ(2兆6000億円)で利益率10%を超える企業を対象として、利益率が10%を超える金額に対してて、その20~30%を事業を行う各国での売上高に応じて配分される予定です。

●この時期に合意に至った背景
2016年に「パナマ文書」が公表され、当時のオバマ米大統領はタックスヘイブンを引き合いに出し ながら、グローバルな租税回避の取り締まりを強化しようと世界の指導者に呼びかけましたが、世界的な合意に至りませんでした。
しかし、コロナ禍において各国の財政が逼迫したことにより、税率を上げざるをえなくなり、また、コロナ禍で一人勝ちをしているデジタル企業から税を徴収するべきだという機運が高まったからと言われています。

●以下のような問題点も指摘されています。
・最低税率15%は低すぎるのではないか。実際にそれを上回っている国もあります。
・税率の低いタックスヘイブンの国々は、最低法人税率の導入に強い反発を示すのではないか。代表的な租税回避地とされるスイス、シンガポール、香港、キプロス、バハマ、ケイマン諸島、バージン諸島、ジャージー島などはいずれもG20に含まれていません。
・すでに独自のデジタル課税を導入しとている国、欧州でいえば、フランス、イギリス、オーストリア、チェコなど、これらとの足並みを揃えられるのか。
・法人税とデジタル課税の両方の対象となることにより、国際的な二重課税となる可能性があるが、条約上の救済が与えられない可能性が高い。

●まとめ
この国際合意は、デジタル分野の発展を妨げるという意見もありますが、広がった富の格差の是正、それによる持続可能な世界の実現のためには、いたしかたない流れではないかと思われます。しかしGAFAをはじめとするデジタル企業においては、なんらかのビジネスモデルの変更の必要が強いられるかもしれません。
我々の仕事に関する影響としては、今後、越境ECを展開しているサイトに関しては、なんらかの対応の要望が発生するかもしれません。
参考:デジタル課税の説明 日経新聞 2021/05/23
   合意の背景 yahooニュース 2021/06/09
   問題点など 早稲田大学法学学術院 2021/05/24