「明るい曲」が流行すると景気は良くなる
「お笑いブームと不景気」など、遠因が存在するとされるアノマリーもある。「お笑いブームと不景気」については、不景気のときは視聴者がテレビに笑いを求めることが一応の根拠とされている。
※アリマニーとは、法則・理論からみて異常であったり、説明できない事象や個体等を指す。
好況時には明るく派手な色がはやるという傾向もよく知られている。この根拠になっているのは、女性の口紅の色の流行だ。赤は気分が乗っていて自己主張が強くなっているときでないと使いにくい色なのだという。したがって、景気と女性が好む口紅の色の関係に「好景気=鮮やかな赤、不景気=淡いローズやピンク」といった傾向があるらしい。
今回、これらの一種として「ヒット曲と景気の関係」をテキストマイニングの手法によって明らかにした。
※テキストマイニングとは、文字列を対象としたデータマイニングのこと。
結論を先に述べてしまうと、日本では好況時には明るい曲が流行している傾向がある。また、因果関係まで考察すると、好況時だから明るい曲がはやるのではなく、明るい曲がはやるから好況になるという因果関係になっている可能性が示された。
今回の分析では、1980~2018年の39年分の年間ヒット曲トップ10の歌詞データを「極性スコア化」することにより、各年代ではやった曲の「明るさ」(暗さ)を指数化した。
─ YODOQの見方───────────────────────────
この記事では歌詞に含まれる単語に注目していますが、調べたところ、メロディと景気の相関を調査した論文が見つかりました。
1968~2011年の年間シングルヒットチャート上位30位にランクインした合計1320曲の調性を調査し、1970年代前半~2000年代後半を5年ごと8つの時期に区切って集計しグラフ化しました。その結果、同じ年、1年遅らせた場合、2年遅らせた場合で相関を求めると、同じ年0.56、1年遅らせた場合 0.70、2年遅らせた場合 0.58 と、1年遅らせた場合に最も高い相関が見られました。
というわけで、歌詞とメロディーには若干の傾向の違いが見られるものの、共に相関があるらしいということが分かりました。そこで、実際にどういう曲がはやっていたのかを、ここ30年間で経済成長率が特徴的だった年について調べてみました。(年代流行より)
1988年 経済成長率 6.79 (バブル期)
1.光GENJI パラダイス銀河 2.光GENJI ガラスの十代
1993年 経済成長率 -0.52 (バブル崩壊)
1.CHAGE&ASKA YAH YAH YAH 2.B’z 愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない
2000年 経済成長率 2.78 (低成長期・安定期)
1.サザンオールスターズ TSUNAMI 2.福山雅治 桜坂
2009年 経済成長率 -5.42 (リーマンショック!)
1.嵐 Believe/曇りのち、快晴 2.嵐 明日の記憶/Crazy Moon~キミ・ハ・ムテキ~
2017年 経済成長率 1.93 (低成長期・安定期)
1.AKB48 願いごとの持ち腐れ 2.AKB48 #好きなんだ
こうして見た結果、まったく傾向がわかりませんでした。特に2000年を超えたあたりからはグラフからもその傾向は見てとれます。(景気の動向に極性グラフ、調性グラフが追随していない)
確かに30年前からの長いスパンで見ると、何らかの相関はあるのだと思います。しかし、冒頭記事を否定することにはなりますが、昨今では当てはまらないのでと思い、最後にその理由を考えてみました。
・景気の変動がグローバルの影響で唐突に起きる。昔は景気の動向というものは周期的に動くといわれてましたが、リーマンショックを誰が予想できたでしょうか。
・音楽の選択肢が広がっている。昔はレコード会社主体で、そこに属する作曲家、作詞家、歌い手が、レコード会社が決めた方針に従って売れそうなものを戦略的に作っていたのでしょう。しかし現代ではアーティストが作りたいものを作り、聴き手はそこから取捨選択をしています。
・配信サービスやYouTubeなどの広がりにより、聴く音楽がさらに多様化しています。
・音楽の主な消費者は若者ですが、若者は景気、不景気をあまり気にしないのではないでしょうか。特にバブルを経験していない若者は生まれた時から低成長期。
・気持ちの動向が景気だけで左右されるような単純な世の中ではなくなっています。 景気がよくなっても、暗いニュースはいくらでもあります。
※そう考えると、音楽にかかわらず、いいことでも、悪いことでも、世の中の動向との相関を表すものを特定するのが難しい時代になってきているのではないでしょうか。そして、たとえ相関が見つかっても、それは本当に短いスパンで見直していかなければならないの時代なのではないでしょうか。